私は、1人の歯科医師が、1人1人の患者さんの名前や顔を覚え、さらにその特徴をつかんで治療に望めるのは、常時100名くらいではないかと思います。人間、それほど多くの人の事を記憶して、正確に治療することは非常に難しいのではないでしょうか。1人の身内の介護をするだけでも、真剣に取り組めば体が持たないでしょう。ましてや患者さんを、流れ作業で、次々と治療していくことには、いささか不安を感じます。
科学的根拠に基づいた治療、という言葉を最近よく耳にしますが、例えば、「地球は太陽の周りを回っている。」という、科学的事実も、「それは本当ですか?」と質問をしたとき、一体どれだけの人が、正しく、わかりやすく説明することができるでしょうか。あるいは「感染とは何ですか?」という質問でも、歯科医師でさえ、案外答えられないものです。
科学的根拠というからには、そう言った根本部分が分かっていないと、始まらないのではないかと思うのです。ところが、そういう根本の部分を調べていくことは、簡単ではなくとても時間がかかります。私は、そういう作業を積み重ねていかないと、なかなかしっかりとした土台は作られないように思うのです。そして土台がしっかりすれば、テレビや新聞、雑誌やネットの情報に、簡単に惑わされることは無いのではないでしょうか。
私はこうした土台を築きながら、患者さんに分かりやすい説明を心がけています。また人は1度聞いたくらいでは覚えていないものです。さらにその説明を何度も何度も繰り返すことが必要だと思っております。それでも、なお説明し理解していただくことは難しいと感じています。
科学を追求して行ったところで、私には歯牙1本作れません。そうである以上、完璧といわれる治療は無いと考えています。しかし、それならば、せめて心のある治療を提供したい。そして患者さんの真の本音を汲んでいけるような歯科医院をつくりたいと思うようになったのです。
1人の人間ができることは限られています。それは歯科医師も同じです。そして、何でもできる訳ではありません。不可能な事も当然あります。だからこそ、患者さんと相談し、私が考えられる最高の治療を誠心誠意行っていきたいのです。不可能だからといって諦めることはありません。その時には、共に解決策を考えていきましょう。
「心の通った歯科医療」を行える理想の歯科医院を作っていきたいと思います。
院長 脇田 一慶